加藤道夫作の「現代のおとぎ話」思い出を売る男に寄せて

加藤道夫への熱きオマージュと、四季の原点であるストレートプレイへの情熱を込めた珠玉の舞台『思い出を売る男』は、今回の再演でも大きな反響を呼びました。その声のいくつかをご紹介します。

開幕後に寄せられた感動の声
200字コメントより
岡本英敏さん(慶應義塾湘南藤沢中・高教諭、2010年『三田文学』新人賞受賞)まずは、私の正直なところを吐露することから始めねばならない。これまで四季の公演に接するたび、今や日本随一のミュージカル劇団としてもある今日の四季を、加藤道夫ならどう思うだろうかということを考えていた。どうも加藤道夫の世界からは遠いのではと思われたからである。しかし、「思い出を売る男」の中で紡ぎ出されるオルゴールの蕭条たる調べ、そして憂愁を帯びたサクソフォンの響き、さらには麗しい「巴里の屋根の下」の旋律。それらが劇場全体に響交いつつ、リズミカルにドラマは進み行く。「これはまるでミュージカルではないか」。とすれば、加藤道夫と四季とは遠いところにあるのでは決してない。その確かな礎の上に、今日の四季の殷賑が極まっているのである。
石倉洋子さん(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)作品は、とても印象深いものでした。演劇の美しさを「詩と幻想」に求めていた加藤道夫先生の作品であること位で、イメージが実はあまりなく、ストー リーをほとんど知らずにいったのですが、音楽、詩、どんなに苦しい、悲しい状況の中でも、誰でもが心の中に持っている「幸せ」の思い出を、音楽で呼び覚ま そうというストーリーは、とても魅力的でした。 音楽は心の深い所に直接響くと常に感じているので、特に印象深かったのかもしれません。舞台を見ながら、自分の思い出がよみがえってきたり、作品の時代背景は終戦後なのですが、今の日本や世界を思い出させられたり、普段の生活を離れ て、心が別の世界に飛んでいき、自由にさまようような気がしました。
池田雅之さん(原作『キャッツ』の訳者 早稲田大学教授)『思い出を売る男』は、セピア色をした昔日の郷愁へと私たちを誘う。これは夢のようなもの悲しい純な魂たちの物語だ。舞台は、敗戦直後のうらぶれた東京の街角。主人公の男は、街行く人々に声を掛けては、「思い出」を売っている。この商売とは、詩(歌)と音楽でその人の思い出を蘇らせてあげることらしい。しかし、思い出を売るという商売には、何か人生の妙薬が含まれているのか。私たち観客も、現実と幻想を隔てる日常の灰色の壁を前にして、自身の思い出という妙薬(あるいは劇薬)とは何かに想いを巡らせる。現在の劇団四季が大切に継承しているのは、こうした思い出を夢として語ろうとする原作者・加藤道夫のPoetica Fantasia(詩的幻想)の詩魂だと思われる。観客よ、今日も「思い出に生き給え」。
吉原 茂さん(映像ディさんレクター)抒情的な美しさとともに、戦後という世界に向けた作家の目を感じる素晴らしい舞台でした。台詞とか風俗とか、入口は容易で分かりやすくできていますが、その奥に広がる世界が実に深い。加藤道夫さんが台詞の奥に込めたメッセージを観客がいかに受け止めるかを試されているような気がします。というのも、サクソフォンの音楽、二階まで続く電線の光、劇場全体が思い出の世界になります。その空間の中で、あの灰色の壁に"どれだけ自分の人生を描けるか"ということがこの作品の楽しみではないでしょうか。
Photo by 上原タカシ
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