![]()
『人間になりたがった猫』の場合、作品のテーマである生命の大切さ、仲間を思いやる心がもっともよく表されているのは、ホテル「白鳥の王様」の火事のシーンでしょう。
人を愛することを知った猫のライオネルが、愛しいジリアンと彼女に横恋慕するスワガードを、燃え盛るホテルから助け出すクライマックスシーンは、火事の様子がリアルであればあるほど、ライオネルの勇敢さ、真の愛情が浮き彫りにされるわけです。さらに、より緊迫感を出すため、登場人物の動きに呼応して建物が崩れていくように、順序やタイミングも、緻密に計算されています。
まず、救出に入ろうとする人々を拒むファイアーバーストのような激しい炎と煙を出すのは、炭酸ガスの圧力ボンベです。次にジリアンを助け出そうとライオネルが現れ、二人の上に屋根瓦や壁の破片がバラバラと落下しますが、これは、軽量の硬質ウレタンや、カルプという素材で作られています。この時の屋根や壁の崩れ方は、俳優の動きや照明、音響に合わせていくつものピースに分けられ、煙が立ちこめる中、徐々に崩れ落ちていくのです。
そして、放火の張本人スワガードが二階バルコニーに姿を現します。見上げる人々の上に、貯水樽を乗せた櫓が落ちて砕け散る中、ライオネルは再び救出に向かいますが、ここでは板塀がバタバタと倒れかかり、階段は駆け上がった途端に焼け落ちる仕掛けになっています。他にも数十のパーツが、スモークマシンから噴き出す煙の中で落下しますが、不自然に見えないように、ちゃんと一枚一枚落ちるように工夫されているのです。最終的に、鉄骨で作られたホテルは屋根も壁も無くなり、骨格を残すのみとなります。
最後、ライオネルとスワガードに投げられたロープが、人力と滑車の力で舞台から袖までピンと張られ、これを伝って二人が空中を降りてくるのですが、ライオネルが降りきった瞬間のタイミングを計り、「白鳥の王様」は、真っ二つに分かれて倒壊するようになっています。
残骸の中で、チロチロと残り火が闇を透かして瞬いて見える様子は、燃え残った柱に仕掛けられた照明の効果です。こうやって、『人間になりたがった猫』の手に汗握る危機一髪のシーンは出来上がっています。
「四季の会」会報誌「ラ・アルプ」2009年10月号より転載


舞台美術家。1972年劇団四季演劇研究所入所。金森馨のアシスタントを務める。
83年『キャッツ』日本初演の美術デザインを機に舞台美術家として活動を始め、2000年「TSUCHIYA CO-OPERATION」を設立、フリーに。
劇団四季作品は、ほかにも『エビータ』『ミュージカル南十字星』『鹿鳴館』など多数手掛ける。

