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『思い出を売る男』とは? 『思い出を売る男』の時代

劇作家・加藤道夫の手により戯曲『思い出を売る男』が発表されたのは、第二次世界大戦終戦から6年後の1951年のことでした。

戦後の混乱期から抜け出そうと、まだ見ぬ曙光を夢見ながら、薄暗闇の中で人々が懸命に生きていた時代です。
今から半世紀以上も昔の、とある街角。作品の空気をより身近に感じるためにも、当時の日本の様子を少し振り返ってみたいと思います。

戦後混乱期と帰還兵

戦争が終結した1945年からGHQ(General Headquarters:連合国最高司令官総司令部)による占領が解かれる1952年までを「戦後混乱期」と呼びます。
空襲で焼け野原となった都市では、人々は配給による物資だけでは生活できず、非合法に商売をする闇市がそこかしこに立ち並びました。1949年にGHQから闇市撤廃命令が出され消滅することになりますが、こうした闇市は新宿・梅田などの繁華街へと生まれ変わっていくことになります。

物不足の中、子どもたちは「ギブ・ミー・チョコレート」と米軍のジープを取り囲み、歌手・岡晴夫による『東京の花売娘』など、当時の街の様子を歌った歌が大ヒットしました。花売娘は『思い出を売る男』にも登場し、戦後混乱期のひとつの象徴的存在でもありました。

また、戦争が終わったことで、復員兵や引揚者が続々と日本に帰ってきました。本作の主人公も復員兵風の出で立ちをしています。彼らがいた頃とは価値観も、風景も180度変わってしまった日本で、その社会へと溶け込んでいける者もいれば、そうでない者もいました。
特に、戦争で傷を負ってしまった傷痍軍人にとっては、街頭でハーモニカやアコーディオンを演奏して通行人からお金を貰うことが、大きな収入源のひとつとなっていたようです。サックスを吹きながら思い出を売る主人公も、そうした傷痍軍人の影をひきずっているのかもしれません。

アプレゲール

物語の冒頭、「思い出をお買いになりませんか?」と男に話かけられた紳士は「アプレゲール新商売か?」と言いながら立ち去ります。
「アプレゲール」とはフランス語で「戦後」という意味です。第二次大戦後にあらわれた、従来の思想・道徳・習慣などにとらわれないで行動する人々を指します。「戦後派」ともいわれ、野間宏、安部公房、中村真一郎、埴谷雄高などの作家が、その代表といわれています。

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